トランスギャル、ナゴムギャルのほかにも、ゴシック・アンド・ロリータには志向・外見が類似したいくつかのファッション傾向が存在する。
ゴシック・ファッション、ロリータ・ファッション [編集]
前述のようにゴシック・アンド・ロリータは、ゴシック・ファッションとロリータ・ファッションの融合である[3][10][23]ためそれぞれの要素を含んでいるが、美術評論家の樋口ヒロユキは、著書『死想の血統 ゴシック・ロリータの系譜学』の中でゴスイベントに来る、ゴシック・アンド・ロリータ・ファッション、ゴシック・ファッション、ロリータ・ファッションの愛好家を比較して次のように大別している。
ゴシック・アンド・ロリータ・ファッション:フリルやレースたっぷりのロリータ服とラバー小物、顔はまれに白塗り
ゴシック・ファッション:SM系のラバーやパンク服、顔は白塗り
ロリータ・ファッション:フリルやレースたっぷりのロリータ服、顔はナチュラル・メイク
その上で樋口は、ゴシック・アンド・ロリータは、ゴシックとロリータの間にあるもので、ゴシック寄りのものは死の匂いが強く、ロリータ寄りのものは少女趣味が強くなるとした[33]。
ゴシック
「ゴシック」(Gothic)とは、「ゴート族風の」という意味で、「野蛮・残酷」を意味する語であった[34][35]。ゴシックは、建築の世界でも尖塔アーチを利用した石造りの高い柱を持つ複雑華麗な建築、ゴシック建築として存在するが、それはルネサンス期の人々が野蛮と捉えたからとされている[34]。また建築に限らず、美術の世界にもゴシック美術というものがあるため、ゴシックを「中世風の意匠」とも考えられている[34]。さらにゴシックは、文学の世界でもゴシック・ロマンスとして存在し、特に初期の作品はゴシック建築の影響が強く見られる。
また、ゴシック・ロマンスの中でもマシュー・グレゴリー・ルイスの『マンク』(1796年)、メアリ・ウルストンクラフト・シェリーの『フランケンシュタイン』(1818年)、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)などが「ゴシック世界」規定していった[34]。特に後二者は何度も映画化され、そうした映像作品における吸血鬼やモンスターのイメージはゴシック・ファッションの原型となった[34]。
なお、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』をベースとして初めて映像化された作品は『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年)である。
ゴシック的な要素 [編集]
ゴシック・アンド・ロリータは、ゴシックとロリータの要素を結びつけたものであるが、ゴシックな要素として次のようなものが挙げられている。
「色ならば黒。時間なら夜か夕暮れ。場所は文字通りゴシック建築の中か、それに準ずるような荒涼感と薄暗さをもつ廃墟や古い建築物のあるところ。現代より過去。ヨーロッパの中世。古めかしい装い。温かみより冷たさ。怪物・異形・異端・悪・苦痛・死の表現。損なわれたものや損なわれた身体。身体の改変・変容。物語として描かれる場合には暴力と惨劇。怪奇と恐怖。猟奇的なもの。頽廃的なもの。あるいは一転して無垢なものへの憧憬。その表現としての人形。少女趣味。様式美の尊重。両性具有、天使、悪魔など、西洋由来の神秘的イメージ。驚異。崇高さへの傾倒。終末観。装飾的・儀式的・呪術的なしぐさや振る舞い。夢と幻想への耽溺。別世界への夢想。アンチ・キリスト。アンチ・ヒューマン。」(高橋英理『ゴシックハート』より引用[37])
こうした要素を内包していなければゴシック・アンド・ロリータとは呼ばない[16]。
ゴスとヴィジュアル系の関係とゴシック・アンド・ロリータ
また、ゴシック的な感覚を基に生まれたゴス(Goth)は、イギリスのバウハウス、ジョイ・ディヴィジョン、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、シスターズ・オブ・マーシー、アメリカのマリリン・マンソン、日本ではX JAPANやMALICE MIZERが伝道したスタイルである[31]。X JAPAN、MALICE MIZER共にヴィジュアル系バンドであるが、ゴシック・アンド・ロリータの源流はそうしたヴィジュアル系バンドファンのコスチュームプレイにあり[25]、ゴスの流れを汲むヴィジュアル系バンドのファン層を中心に広がっていった[38]。
ヴィジュアル系に関してはMALICE MIZERのリーダーmanaのコスプレをするファンたちが増えたことにより、急激にゴシック&ロリータ・ファッションが広まった[5]といわれており、manaのエレガント・ゴシック・ロリータというスタイルがルーツともいわれている[31][25][2]。またMALICE MIZERの影響の他に、X JAPANが着て広まったとする説もある[20]。
また、ゴシック・アンド・ロリータの愛好者はヴィジュアル系バンドのファン層に多く[10] 、ヴィジュアル系バンドのファンの中には、メンバーと同じ衣装を購入あるいは手作りする者[25]やMALICE MIZERのManaによるMoi-même-moitiéのようなブランドを好む者もいる[22]。しかし、ヴィジュアル系と関連する愛好者もゴシック・アンド・ロリータのいくつかの類型のうちの一つである[22]。
ゴシックの解
ゴシック・アンド・ロリータはゴシック・ファッションとロリータ・ファッションの融合である[3][10][23]が、ゴシック関係者の中にはゴシック・アンド・ロリータをアキバ系と捉え、ゴシックの解釈の違いを主張する者もいる[39]。例えば、ゴシック・アンド・ロリータの解釈するゴシックが「黒い服を着た王子様」であるのに対して、ポジティブパンクのような「白塗りモヒカン」もゴシックであり、両者には隔たりがあるというものである[39]。他にも、ゴシック・アンド・ロリータはロリータ・ファッションとは色が違うだけという意見もある[39]。また逆に、ゴシック・ファッションブランドbeauty:beastのデザイナーである山下隆生はゴシック・アンド・ロリータについて、バッスルスタイルやビクトリア時代風のシルエット、コルセットやパニエを使っている点は忠実であると述べている[40]。
その一方でゴシックは見た目より中身であり、ロリータであっても中身が暗ければゴシックであるという意見もあるため、ゴシック関係者の間でも認識は一定ではない。また、紫泉は日本と日本国外のゴシックイベントを比較して、日本の参加者は女性が多く、服装はゴスロリであるのに対し、海外は男性の参加者が多く、服装はフェティッシュとサイバーの要素が多いと述べている
ロリータ [編集]
ゴシック・アンド・ロリータのロリータは、ロシア人作家ウラジミール・ナボコフの小説『ロリータ』に由来する。この「ロリータ」とは作中に登場するドロレス・ヘイズという少女の愛称であるが、この少女は少女期特有の妖しい魅力(ニンフェット)の持ち主で、語り手のハンバート・ハンバート博士を魅了し破滅させる[16]。そのような魅力を持った少女の名を冠した、ロリータ・ファッションであるが、強調されるのは「少女的である」という要素だけという指摘もある
なお、ナボコフのロリータが持つ少女のイメージはナボコフが20代の頃にロシア語翻訳を行った『不思議の国のアリス』に深い影響を受けているともいわれているが[45]、『不思議の国のアリス』の主人公アリスはゴシック・アンド・ロリータのアイコンとしては基本である[46]。
ロリータな要素 [編集]
嶽本野ばらはロリータの共通して偏愛する要素について「アリス、王冠、天使、テディベア、キティちゃん……。澁澤龍彦、森茉莉、恋月姫、楠本まき……。バッハ、パンク、アンティークオルゴール……。」を挙げている[47]。また嶽本は、ロリータは各自が自分流のロリータの定義を持っており、自らの美意識のみを拠り所とし、自分のルールにしか従わないのがロリータとして生きていくための条件であると主張しており[47]、その定義について、フリルが満載の洋服を着ている、ヘッドドレスをつけているなどの表層的な部分を定番どおりになぞらえても真のロリータにはなりえず、ロリータの解釈と実践は各人によって異なり、ロリータな精神さえ持っていればロリータであると述べている[48]。このほかにも嶽本は「ロリータの本質はロリータ・ファッションを着用することにある訳ではありません。ロリータ・ファッションに憧れること。ゴージャスなフリルを見た時、失神しそうになるデコラティヴへの生理的恍惚感。十八世紀的趣味。たとえロリータ・ファッションをしていなくとも、この宿命ともいえる美的感性を内在することが、真性ロリータの証なのです。」とも述べている[49]。また、三原ミツカズはロリータを「永遠の少女」と表現し、童話的かつ残酷と述べている
ロリータという語が日本において使われる場合、ナボコフの作り上げたロリータとはほぼ逆の意味でとらえられる[47]。日本においてロリータは「コケットリーな少女」ではなく「実際はもう大人なのに、童顔故にセーラー服や体操服を着て幼く見せている女性」、「本当にまだエロスの欠片も身体に宿していない少女」を差す[47]。嶽本野ばらは、そのような日本的解釈のロリータをロリータの基本とすると述べている
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